世界から見た日本の動物園デザイン(展示・飼育環境)の評価は、残念ながら高くありません。
一般的に、日本の多くの施設は意匠性や展示の概念が欠如しており、メッセージ性のない、機能性と作業性に特化した動物を飼育して公開するだけの「公開型畜舎」になってしまっていることが原因と考えます。動物園はそもそも「展示」を通して伝えることが根本的な機能であり、前提です。
日本には素晴らしい建築技術、庭園技術、飼育技術などの基盤があるにもかかわらず、なぜ良い動物園デザインができないのでしょうか。簡単に言ってしまうと、日本特有の内需の社会構造と、結果として生じる国際標準とのズレ、つまりガラパゴス化に起因するのではないかと考えます。
動物園の飼育環境や展示のデザインは、特殊な専門領域であり、個々の高い技術力を統合するだけでは実現できません。関係者が集まり議論を重ねても、膨大な時間がコミュニケーションコストに消えるだけで、素晴らしいデザインには繋がりません。これは、多くの動物舎設計に携わってきた私自身の経験から断言できます。デザインに関わる建築家、ランドスケープデザイナー、飼育技術者、獣医師らはそれぞれの領域ではプロフェッショナルですが、動物園デザインにおいては「異なる能力」が求められます。そのため、日本で一般的である建築分野、または飼育分野主導による動物園設計では、少なからずミスマッチが生じるのです。
個々の専門性を適切に動物園デザインに反映させるには、各分野に領域横断的に精通し、それぞれの立場の思考を言語化して伝えられる「通訳者」、そして全体を把握し青写真を描ける「プロデューサー」的な存在が必要です。動物園デザインは、様々な専門領域を包摂しながら状況に応じて変化していくので、プロデューサーの不在は、結果に大きく影響するのですが、日本においてはそのような仕組みや人材は業界として機能していません。
動物園の施設建設は、規模によっては半世紀に一度のイベントです。そのため、各組織には過去の経験やノウハウの蓄積はほとんどありません。また、前述のとおり、日本では動物園デザインについての専門性と業界が不在で、情報共有や議論が活発ではないため、各施設で同じような設計ミスが繰り返されがちです。動物園デザインは、時代の変化や世界的な動物福祉の流れ、次世代の動物園の役割を考慮し、少なくとも数十年は「社会的に受け入れられるデザイン」が求められます。そのためには十分な調査研究を行い、最高のチームで設計に取り組むことが重要です。事業と適切にマッチする専門家を見つけることは簡単ではありませんが、通常の建築工事の考え方や方法で進めると、多額の予算を消費し、社会的に受け入れられない施設ができてしまうことになります。また動物園の業務発注では過去の実績が重視されるため、新しい革新的な企業が参入しにくい仕組みとなっています。これも、日本の動物園デザインの発展を妨げる一因と言えます。
他の問題として、日本の組織構造が挙げられます。日本では、幅広い領域を経験するゼネラリストとしてキャリアを積むことが一般的で、専門性の高い分野でも、内部で対応しようとする「自前主義」が見られます。つまり、専門性へのハードルが低いのです。自前で多くのことをこなせるのは素晴らしいことですが、特殊な分野での専門性の欠落は、悪い意味で「ガラパゴス化」します。また、外部の専門家を招聘したとしても、内部の価値観に依存してしまい、その専門性を生かしきれないことも多く見受けられます。
私は、そのような日本の現状の中で、良い動物園デザインを実現するための一翼を担っていきたいと、これまで飼育技術者の立場から、飼育だけではなく、建築学、心理学、ランドスケープ、園芸技術などの知見を集積してきました。動物園デザインは、本当に大変です。
施主様、受注者様、具体的なアドバイスやサポートが必要であれば、ぜひお気軽にご相談ください。
代表取締役 本田直也